「自分の理想の教育を実現したい」「独立して塾を開業したい」 そんな夢を持つ一方で、「塾の経営は儲からないって本当?」「個人塾で成功するのは難しいのでは?」という不安を抱えていませんか?
確かに、少子化や競争の激化により、塾経営を取り巻く環境は厳しさを増しています。しかし、正しい知識と戦略があれば、個人塾でも十分に成功し、安定した収益を上げることは可能です。
この記事では、塾経営が「儲からない」と言われる本当の理由から、個人塾経営者のリアルな年収、失敗しないためのポイント、そして「儲かる塾」にするための具体的な成功戦略まで、専門家の視点で徹底的に解説します。
この記事を読めば、あなたの塾経営に対する不安が解消され、成功への具体的な道筋が見えてくるはずです。
塾経営が儲からないと言われる5つの理由

まず、なぜ「塾経営は儲からない」というイメージが広まっているのでしょうか。その背景には、塾業界が抱える構造的な課題があります。ここでは、主な5つの理由を解説します。
少子化による生徒獲得競争の激化
最大の理由は、少子化による市場の縮小です。 子どもの数が減っているため、限られた生徒を多くの塾が奪い合う構図になっています。特に地域の小規模な個人塾は、知名度や資金力で勝る大手塾との厳しい競争にさらされ、生徒集めに苦戦するケースが少なくありません。
人件費や家賃など高い固定費の負担
塾経営には、毎月必ず発生する固定費の負担が大きいという特徴があります。 主な固定費は以下の通りです。
- 人件費 講師を雇用する場合、その給与が最も大きなコストになります。経営者自身が教える場合でも、事務スタッフなどが必要になることがあります。
- 家賃 駅前や通いやすい立地でテナントを借りる場合、家賃は大きな負担となります。
- 教材費・光熱費 生徒数に応じて変動はしますが、基本的な教材の仕入れや教室の光熱費も継続的にかかります。
これらの固定費は、生徒数が少ない時期でも変わらず発生するため、経営を圧迫する大きな要因となります。
大手塾やオンライン塾との価格競争
大手塾や近年急増しているオンライン塾との価格競争も厳しいものがあります。 大手塾は規模のメリットを活かして比較的安価な授業料を設定でき、オンライン塾は家賃などの固定費を抑えられるため、低価格なサービスを提供できます。個人塾が価格だけで勝負しようとすると、利益を削ることになり、「儲からない」状況に陥りやすくなります。
集客の難しさと継続的な広告費
生徒を安定して集めるためには、継続的な集客活動が不可欠です。 かつてはチラシのポスティングや口コミが中心でしたが、現代ではWebサイトの運営、SNSでの情報発信、Web広告など、多角的なアプローチが求められます。これらの広告宣伝費は決して安くなく、効果的な集客方法を見つけられないと、費用対効果が悪化し、収益を圧迫します。
労働時間に見合わない収益構造
塾経営者は、授業時間以外にも多くの業務をこなさなければなりません。
- 授業の準備
- 保護者対応(面談、電話連絡など)
- 生徒の進路相談
- カリキュラム作成
- 経理・事務作業
- 集客活動
これらの業務に追われ、長時間労働になりがちですが、それに見合った収益を上げられていないケースが多く見られます。特に一人で経営している個人塾では、この傾向が顕著です。
個人塾経営者のリアルな年収と収支モデル

「儲からない」と言われる一方で、実際に個人塾を経営している人はどのくらいの収入を得ているのでしょうか。ここでは、リアルな年収の目安と、目標達成のための収支モデルを解説します。
個人塾経営者の平均年収は300〜600万円
個人塾経営者の平均的な年収は、300万円〜600万円がボリュームゾーンと言われています。 もちろん、これはあくまで平均値です。生徒数が少なく経営が厳しい場合は年収200万円以下になることもありますし、逆に経営が軌道に乗り、多くの生徒を抱える人気の塾になれば、年収1000万円を超えることも夢ではありません。
塾経営の年収は、売上から経費を差し引いた「利益」によって決まります。つまり、生徒数や授業料だけでなく、家賃や人件費などのコスト管理が収入を大きく左右するのです。
年収1000万円を超えるための生徒数と売上
では、目標とされることが多い「年収1000万円」を達成するには、どのくらいの生徒数と売上が必要なのでしょうか。
仮に、生徒一人あたりの月謝を3万円、利益率を30%と仮定して計算してみましょう。
- 必要な年間利益: 1000万円
- 必要な年間売上: 1000万円 ÷ 30% = 約3,334万円
- 必要な月間売上: 約3,334万円 ÷ 12ヶ月 = 約278万円
- 必要な生徒数: 約278万円 ÷ 3万円/人 = 約93人
これはあくまで単純計算ですが、常に90人以上の生徒を確保し続けることが一つの目安となります。集団指導か個別指導か、講師を何人雇うかによって経費は大きく変わるため、自分の塾のモデルに合わせてシミュレーションすることが重要です。
【生徒数別】収支シミュレーション
より具体的にイメージできるよう、生徒数別の収支モデルを見ていきましょう。(※家賃15万円、講師1名雇用、広告費5万円などを想定した簡易シミュレーションです)
生徒20人の場合の売上・経費・利益
- 売上 月謝2.5万円 × 20人 = 50万円
- 経費 家賃15万円 + 人件費20万円 + 広告費5万円 + その他5万円 = 45万円
- 月間利益 50万円 – 45万円 = 5万円
- 想定年収 5万円 × 12ヶ月 = 60万円
生徒数が少ないと、固定費をカバーするだけで精一杯になり、経営者の収入はほとんど残らない可能性があります。
生徒50人の場合の売上・経費・利益
- 売上 月謝2.5万円 × 50人 = 125万円
- 経費 家賃15万円 + 人件費25万円 + 広告費10万円 + その他10万円 = 60万円
- 月間利益 125万円 – 60万円 = 65万円
- 想定年収 65万円 × 12ヶ月 = 780万円
生徒数が50人規模になると、売上が大きく伸び、経費を差し引いても十分な利益が残り、高い年収を実現できる可能性が見えてきます。
利益率を高めるコスト削減のポイント
利益を最大化するには、売上を上げるだけでなく、無駄な経費を削減することも重要です。
- 自宅開業で家賃をゼロにする もし可能であれば、自宅の一部を教室にすることで最大の固定費である家賃を削減できます。
- オンライン教材やプリント作成サービスを活用する 紙の教材を大量に仕入れるのではなく、必要な分だけ印刷できるオンラインサービスなどを活用し、教材費を最適化します。
- 広告費の費用対効果を見直す 効果の薄い広告は停止し、WebサイトやSNSなど、費用を抑えつつ効果の高い集客方法に注力します。
- 事務作業を効率化する 塾管理システムなどを導入し、請求書作成や入金管理といった事務作業を自動化することで、人件費や自身の労働時間を削減します。
失敗する塾経営に共通する5つの特徴

成功事例から学ぶことも大切ですが、失敗事例から「やってはいけないこと」を知ることはさらに重要です。ここでは、経営がうまくいかない塾に共通する5つの特徴を解説します。
コンセプトが曖昧で他塾と差別化できていない
「誰に、何を、どのように提供するのか」というコンセプトが曖昧な塾は、その他大勢に埋もれてしまいます。 「近所の生徒なら誰でも歓迎」「主要5教科を教えます」といった漠然としたアピールでは、保護者や生徒の心に響きません。「なぜ、あなた(の塾)でなければならないのか?」という問いに明確に答えられない塾は、価格競争に巻き込まれ、淘汰されていきます。
集客を口コミやチラシのみに依存している
開業当初は、知人からの紹介や近隣へのチラシ配布で生徒が集まるかもしれません。しかし、口コミやチラシだけに頼った集客は不安定です。 WebサイトやSNSを持たず、オンラインでの情報発信を怠っていると、今の時代に合った情報収集を行う保護者層にアプローチできません。安定した経営のためには、複数の集客チャネルを持つことが不可欠です。
ずさんな資金計画と運転資金の不足
「なんとなくこれくらいあれば大丈夫だろう」というどんぶり勘定で開業してしまうのは非常に危険です。 開業当初は、想定外の出費が発生したり、生徒が計画通りに集まらなかったりすることがよくあります。最低でも6ヶ月分程度の運転資金(家賃、人件費、生活費など)を準備しておかないと、すぐに資金ショートに陥り、事業の継続が困難になります。
保護者とのコミュニケーション不足による信頼損失
塾経営は、生徒だけでなく保護者との信頼関係が基盤です。 子どもの塾での様子や学習の進捗状況が分からないと、保護者は不安になります。定期的な面談や報告を怠ったり、相談に対するレスポンスが遅かったりすると、不信感が募り、退塾につながってしまいます。
指導品質の低下と生徒満足度の低迷
当然のことですが、成績が上がらない、授業が分かりにくいといった指導品質の低さは致命的です。 経営が忙しくなるあまり、授業の準備がおろそかになったり、生徒一人ひとりへの対応が雑になったりすると、生徒の満足度は一気に低下します。満足度の低い塾からは生徒が離れていくだけでなく、悪い評判が広まってしまうリスクもあります。
儲かる個人塾にするための成功戦略

では、厳しい競争環境の中で「儲かる塾」を経営するためには、どのような戦略が必要なのでしょうか。ここでは、成功している個人塾が実践している5つの戦略を紹介します。
ターゲットを絞った専門特化型で差別化
万人受けを狙うのではなく、特定のニーズに特化することで独自の強みを打ち出します。
- 例1:特定の学校の生徒専門塾 地域の特定の学校の進度やテスト範囲に完全準拠した指導を行う。
- 例2:不登校の生徒専門の個別指導塾 学習の遅れを取り戻すだけでなく、メンタルケアにも力を入れる。
- 例3:プログラミングや英語など特定科目特化塾 専門性の高い指導で、他塾にはない価値を提供する。
ターゲットを絞ることで、そのニーズを持つ層から「ここしかない」と選ばれる存在になれます。
高付加価値サービスによる客単価アップ
価格競争から脱却し、サービスの質で勝負することで客単価を上げる戦略です。 単に授業時間を増やすのではなく、付加価値の高いサービスを提供します。
- 進路指導・キャリアコンサルティング 学習計画だけでなく、将来の夢や目標設定までサポートする。
- 自習室の開放と質問対応 授業以外の時間も学習できる環境を提供し、いつでも質問できる体制を整える。
- 定期的な学習管理と保護者へのフィードバック 詳細な学習レポートを定期的に提出し、保護者の安心感を高める。
これらのサービスは、月謝を相場より高く設定する根拠となり、利益率の向上に直結します。
WebサイトやSNSを活用したオンライン集客
現代の塾探しは、インターネット検索が主流です。 専門知識がなくても簡単に作成できるサービスを利用して、まずは公式のWebサイトを持ちましょう。
- Webサイト(ホームページ) 塾のコンセプト、強み、料金、講師紹介などを分かりやすく掲載し、信頼性を高めます。
- ブログ・コラム 地域の教育情報や勉強法など、保護者や生徒の役に立つ情報を発信し、検索エンジンからの流入を狙います(SEO対策)。
- SNS(Instagram, Xなど) 教室の雰囲気やイベントの様子などを発信し、親近感を持ってもらいます。
これらのオンラインツールを組み合わせることで、広告費を抑えながら効果的に塾の存在をアピールできます。
季節講習や特別講座で売上を最大化
夏休みや冬休みなどの長期休暇は、売上を大きく伸ばすチャンスです。 通常の月謝収入に加えて、季節講習の売上が加わることで、年間の収益が大きく変わります。
- 夏期講習・冬期講習 復習や受験対策など、目的に合わせた集中講座を開講する。
- 定期テスト対策講座 テスト直前の週末などに、出題範囲に絞った短期集中講座を実施する。
- 英検対策講座など 特定の資格試験に特化した講座を開講し、新たなニーズを掘り起こす。
これらの講座は、既存の生徒だけでなく、外部生を獲得するきっかけにもなります。
既存生徒の満足度向上と紹介制度の導入
最高の集客は、満足した生徒や保護者からの口コミです。 新規生徒の獲得にはコストがかかりますが、既存生徒の維持や紹介にはほとんどコストがかかりません。
- 生徒満足度の向上 定期的にアンケートを実施し、授業や教室環境の改善に努める。生徒一人ひとりの目標達成を全力でサポートし、成功体験を積ませることが最も重要です。
- 紹介制度の導入 紹介してくれた方と入塾してくれた方の双方に、授業料割引や図書カードなどの特典を用意する。「紹介したい」と思ってもらえるような魅力的な塾であることが大前提です。
開業形態別のメリット・デメリットを比較

塾を開業する際には、いくつかの形態から自分に合ったものを選ぶ必要があります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、最適な選択をしましょう。
個人経営塾とフランチャイズ加盟塾
個人経営塾 | フランチャイズ加盟塾 | |
---|---|---|
メリット | ・経営の自由度が高い ・ロイヤリティが不要 ・独自の教育理念を追求できる | ・ブランド力と知名度がある ・確立された経営ノウハウを利用できる ・集客や教材開発のサポートがある |
デメリット | ・集客や教材を全て自力で準備 ・知名度がなく信頼獲得に時間がかかる ・経営ノウハウを自分で学ぶ必要がある | ・加盟金やロイヤリティが発生する ・経営の自由度が低い ・ブランドイメージに縛られる |
自宅開業とテナント開業
自宅開業 | テナント開業 | |
---|---|---|
メリット | ・家賃がかからず初期費用を抑えられる ・通勤時間がない ・プライベートとの両立がしやすい | ・生活感が出ず教育環境に集中できる ・立地を選べば集客しやすい ・事業としての信頼性が高まる |
デメリット | ・生活との線引きが難しい ・教室にできるスペースが限られる ・住所が公開されることへの抵抗感 | ・家賃や保証金など固定費が高い ・内装工事費など初期費用がかさむ ・立地選びに失敗すると致命的 |
個別指導塾と集団指導塾
個別指導塾 | 集団指導塾 | |
---|---|---|
メリット | ・生徒一人ひとりに合わせた指導が可能 ・比較的高い授業料を設定しやすい ・省スペースでも開業可能 | ・一度に多くの生徒を指導でき効率的 ・生徒同士の競争心を煽れる ・講師一人あたりの売上が高い |
デメリット | ・講師一人あたりの売上が低い ・講師の確保が難しい場合がある ・カリキュラム管理が複雑になりがち | ・生徒一人ひとりの理解度を把握しにくい ・一定の生徒数がいないと成立しない ・広い教室が必要になる |
塾の開業に必要な資金と準備

最後に、塾の開業に向けて具体的に必要となる資金や手続きについて解説します。
開業資金の内訳と目安(初期費用・運転資金)
塾の開業に必要な資金は、開業形態によって大きく異なりますが、一般的に100万円〜500万円程度が目安とされています。
- 初期費用(物件取得費、内装工事費、備品購入費など)
- 自宅開業の場合: 50万円〜
- テナント開業の場合: 200万円〜
- 運転資金(家賃、人件費、広告費、生活費など)
- 最低でも6ヶ月分は用意しておきましょう。月々の経費が40万円なら、240万円が目安です。
自己資金と日本政策金融公庫の融資制度
自己資金だけで足りない場合は、融資を検討しましょう。特に、これから事業を始める個人事業主にとって、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」は非常に有力な選択肢です。 低金利で、無担保・無保証人で融資を受けられる可能性があるため、多くの起業家が利用しています。詳しくは公式サイトで確認してください。 (参考:日本政策金融公庫 https://www.jfc.go.jp/)
必要な資格は不要だが有利な資格はある
塾を開業するために必須の資格や免許は特にありません。 教員免許がなくても、誰でも塾を開くことができます。しかし、自身の指導力や専門性をアピールするために、以下のような資格があると有利に働くことがあります。
開業届の提出と事業計画書の作成
個人事業主として塾を始める場合、税務署に「開業届」を提出する必要があります。 また、融資を受ける際には「事業計画書」の作成が必須です。事業計画書は、融資のためだけでなく、自分の事業の目的や戦略、収支計画を明確にするためにも非常に重要です。時間をかけてしっかりと作り込みましょう。
塾経営に関するよくある質問

教員免許や指導経験がなくても開業できる?
はい、開業できます。 法律上、塾の開業に資格は必要ありません。ただし、生徒や保護者からの信頼を得るためには、指導力や実績が重要になります。指導経験がない場合は、まず大手塾で講師として経験を積んだり、自身の学歴や得意分野を強みとしてアピールしたりする工夫が必要です。
塾経営は一人でも運営可能か?
可能です。 特に生徒数が少ないうちは、経営者自身が講師と事務を兼任する形で一人で運営するケースが多く見られます。ただし、生徒数が増えてくると一人で全てをこなすのは困難になります。その際は、事務スタッフやアルバイト講師を雇用するなど、業務を分担する体制を検討しましょう。
生徒が集まらない時の具体的な対策は?
まずは原因を分析することが重要です。 認知されていないのか、魅力が伝わっていないのか、競合に負けているのか、原因によって対策は異なります。 具体的な対策としては、WebサイトやSNSでの情報発信を強化する、体験授業や説明会を積極的に開催する、地域の学校の行事に合わせてチラシを配布する、紹介キャンペーンを実施するなど、複数の施策を試してみましょう。
個人事業主として確定申告は必要?
はい、必要です。 塾経営で得た所得(売上から経費を引いたもの)に対して、所得税を納める義務があります。毎年2月16日から3月15日までの間に、前年1年間の所得を計算し、確定申告を行う必要があります。節税効果の高い「青色申告」を選択するためにも、日頃から帳簿をきちんとつけておくことが大切です。
まとめ
「塾経営は儲からない」という言葉は、少子化や競争激化という厳しい現実の一面を捉えたものです。しかし、それは決して「全ての塾が儲からない」という意味ではありません。
今回解説したように、失敗する塾には共通の特徴があり、それを避けるための明確な成功戦略が存在します。
塾経営は、単なるビジネスではありません。子どもたちの未来を育む、非常にやりがいのある仕事です。この記事で得た知識を元に、しっかりとした事業計画を立て、あなただけの「儲かる塾」そして「生徒に愛される塾」を築き上げてください。あなたの挑戦を心から応援しています。
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