「自分の理想の教育を実現したい」という熱い想いを胸に、個人塾の開業を考えているあなたへ。
しかし、その一方で「塾経営は本当に儲かるのか?」「失敗したらどうしよう…」といった現実的な不安も大きいのではないでしょうか。特に、経営の経験がない方にとって、事業として成り立つかどうかを判断するのは難しいものです。
この記事では、そんなあなたの不安を解消するため、塾経営の成功に不可欠な「損益分岐点」に焦点を当てて解説します。
この記事を読めば、これらの疑問がすべて解決します。具体的なシミュレーションを通じて、あなたの事業計画の実現可能性を客観的に評価し、安定した塾経営への第一歩を踏み出しましょう。
塾経営の損益分岐点モデルケース

「結局、生徒が何人集まれば赤字を脱出できるの?」これが一番知りたいことですよね。 ここでは、開業形態別に損益分岐点となる生徒数の目安をシミュレーションしてみましょう。
※月謝は全国的な個別指導塾の相場を参考に、生徒1人あたり月額25,000円と仮定します。
自宅開業の場合の生徒数と売上
自宅の一部を教室として利用する場合、最大のメリットは家賃がかからないことです。これにより、損益分岐点は大幅に低くなります。
自宅開業の場合、まずは生徒6人を集めることが黒字化の最初の目標となります。比較的少ない生徒数で事業を軌道に乗せやすいのが魅力です。
テナント開業の場合の生徒数と売上
駅前や住宅街にテナントを借りて開業する場合、家賃が固定費として上乗せされるため、損益分岐点は高くなります。
テナントを借りる場合は、最低でも生徒14人を確保する必要があると分かります。その分、立地や教室の広さを活かして多くの生徒を集められる可能性があります。
生徒10人・30人・50人の壁
塾経営には、事業規模が拡大するにつれて乗り越えるべき「壁」が存在します。
損益分岐点の計算方法とシミュレーター

モデルケースでイメージを掴んだところで、次はあなたの事業計画に合わせた損益分岐点の計算方法を学びましょう。計算式は意外とシンプルなので、ぜひ覚えて活用してください。
損益分岐点売上高の計算式
損益分岐点売上高とは、利益がゼロになる売上高のことです。これを上回れば黒字、下回れば赤字となります。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1 – 変動費 ÷ 売上高)
少し複雑に見えますが、「限界利益率(1 – 変動費率)」で固定費を割っているだけです。まずは、売上に対してどれくらいの費用がかかっているかを把握することが重要です。
損益分岐点生徒数の計算式
個人塾の経営では、売上高よりも「あと何人生徒を集めれば良いか」が分かる生徒数で計算する方が直感的で分かりやすいでしょう。
損益分岐点生徒数 = 固定費 ÷ (生徒1人あたりの月謝 – 生徒1人あたりの変動費)
例えば、固定費が月35万円、月謝が25,000円、生徒1人あたりの変動費(教材費など)が5,000円の場合、 35万円 ÷ (25,000円 – 5,000円) = 17.5人 となり、18人目から黒字になると計算できます。
固定費と変動費の具体的な分け方
損益分岐点を正しく計算するには、経費を「固定費」と「変動費」に分ける必要があります。
どの費用がどちらに分類されるかを正しく理解することが、正確な経営判断の第一歩です。
塾経営にかかる経費の内訳と目安

実際に塾を開業し、運営していくにはどのような経費がかかるのでしょうか。ここでは「開業資金」と「月々の運営費」に分けて、具体的な項目と目安を見ていきましょう。
開業資金(初期費用)の項目リスト
開業時に一度だけかかる大きな費用です。自己資金で足りない場合は、融資の検討も必要になります。
物件取得費・保証金
テナントを借りる場合、最も大きな割合を占める費用です。一般的に家賃の6ヶ月~10ヶ月分が目安となります。 (例:家賃10万円なら60万円~100万円)
内装工事費・設備費
学習に集中できる環境を作るための費用です。居抜き物件(前のテナントの設備を流用できる物件)を選べば、この費用を大幅に削減できます。 (目安:50万円~200万円)
備品購入費(机・椅子・PC)
生徒用の机や椅子、指導用のホワイトボード、事務作業用のPCやプリンターなどが必要です。 (目安:30万円~80万円)
初期の広告宣伝費
開校当初は塾の存在を知ってもらう必要があります。チラシの作成・ポスティング、Webサイトの制作、看板の設置などに費用がかかります。 (目安:20万円~50万円)
月々の運営費(固定費・変動費)
毎月継続的に発生する費用です。ここをいかにコントロールするかが、利益率向上のカギとなります。
家賃・地代
テナント開業の場合、固定費の中で最も大きな割合を占めます。立地と費用のバランスを慎重に検討しましょう。 (目安:5万円~20万円 ※地域による)
人件費(自分の役員報酬・講師給与)
自分の生活費となる役員報酬も、経費として計上します。アルバイト講師を雇う場合は、その給与も必要です。売上計画と連動させて慎重に設定しましょう。
水道光熱費・通信費
電気、水道、ガス、インターネット回線などの費用です。生徒数が増えれば電気代なども増えるため、一部は変動費の性質も持ちます。 (目安:2万円~5万円)
教材費・印刷費
生徒数に比例して増える代表的な変動費です。市販の教材を使うか、オリジナルプリントを作成するかでコストは変わります。 (目安:生徒1人あたり月2,000円~5,000円)
個人塾経営のリアルな年収シミュレーション

「個人塾を開業したら、年収はいくらくらいになるの?」という疑問に、生徒数別の収支モデルでお答えします。ここでは、テナント開業(月々の固定費35万円、変動費率20%)を例にシミュレーションしてみましょう。
目標年収から必要な生徒数を逆算する方法
シミュレーションを見る前に、自分の目標から必要な売上を考える方法を知っておきましょう。
必要な年間売上 = (目標年収 + 年間固定費) ÷ (1 – 変動費率)
例えば、目標年収を500万円、年間固定費を420万円(35万円×12ヶ月)、変動費率を**20%**とすると、 (500万円 + 420万円) ÷ (1 – 0.2) = 1,150万円 となり、年間で1,150万円の売上が必要だと分かります。
生徒数15人の売上・利益・年収モデル
損益分岐点を少し超えた、経営が軌道に乗り始めた段階です。
生徒数30人の売上・利益・年収モデル
自分一人での運営から、アルバイト講師の採用も視野に入る段階です。
生徒数50人の売上・利益・年収モデル
個人塾として大成功のレベルです。経営者としての手腕が問われます。
塾経営が「儲からない」と言われる4つの理由

「塾経営は儲からない」という声を耳にすることがあります。それはなぜでしょうか?事前に課題を理解し、対策を練ることが成功への近道です。
少子化による生徒獲得競争の激化
日本の少子化は、塾業界にとって最も大きな逆風です。子どもの数が減る中で、生徒という「顧客」の奪い合いは年々激しくなっています。
大手塾との差別化の難しさ
資金力やブランド力のある大手塾は、大規模な広告や質の高い教材、豊富なデータを持っています。個人塾が同じ土俵で戦うのは得策ではありません。独自の強みで差別化する必要があります。
低い利益率と労働集約型のビジネスモデル
塾経営は、講師が時間をかけて指導することで価値を生む「労働集約型」のビジネスです。そのため、売上を急激に伸ばすのが難しく、利益率も高くなりにくい傾向があります。
集客にかかる広告宣伝費の高騰
Web広告やポスティングなど、生徒を集めるためのコストは上昇傾向にあります。効果的な集客手法を見つけられないと、広告費が利益を圧迫する原因になります。
損益分岐点を下げ利益率を高める経営のコツ

「儲からない理由」を乗り越え、安定した収益を上げるためにはどうすれば良いのでしょうか。損益分岐点を下げ、利益率を高めるための具体的な経営のコツをご紹介します。
まとめ
今回は、個人塾経営の成功に欠かせない「損益分岐点」について、計算方法から具体的なシミュレーション、利益を出すための経営のコツまで詳しく解説しました。
塾経営は、決して「楽に儲かる」ビジネスではありません。しかし、今回ご紹介した損益分岐点の考え方を身につけ、しっかりとした事業計画を立てることで、失敗のリスクを大幅に減らすことができます。
あなたの教育への情熱を、安定した事業として継続させていくために。まずは紙とペンを用意して、ご自身の状況に合わせた損益分岐点の計算から始めてみてはいかがでしょうか。それが、成功する塾経営者への確かな第一歩となるはずです。
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